アメリカの火山の地下に史上最大規模のリチウムが埋まっている鉱脈が発見される
2023年09月13日
アメリカ、ネバダ州タッカー峠にある大昔の火山跡「マクダーミット・カルデラ」の一部には、史上最大規模のリチウム鉱脈が眠っているといわれている。
そこに埋まっている「イライト」という粘土状の鉱物には、カルデラで一般的に見られる粘土鉱物の2倍ものリチウムが含まれており、今後アメリカ国内における重要なリチウム生産拠点になると期待されている。
『Science Advances』(2023年8月30日付)に掲載された研究によれば、1600万年前の噴火で崩壊した火山のマグマが関係しているという。
アメリカ最大規模のリチウム鉱脈
スマホから電気自動車まで、リチウム電池は私たちの生活のさまざまなところで使われており、その世界需要は2030年までに5倍に成長すると予測されている。
きわめて重要な資源だが、現時点でリチウムの産出国は主にオーストラリア、チリ、中国、アルゼンチンの4か国で、大きな偏りがある。
そこで米国政府は、クリーンエネルギーの目標を達成するため、自国内でリチウムを生産しようとしている。
その一つが、カナダの採掘企業「リチウム・アメリカズ社」が採掘を開始したネバダ州タッカー峠にあるリチウム鉱脈だ。
ここは巨大火山の名残とされる「マクダーミット・カルデラ」の一部で、ネバダ州とオレゴン州にまたがる1000平方kmの範囲には、世界最大級のリチウム鉱脈が眠っていると考えられている。
リチウム・アメリカズ社が掘ろうとしているのは、マクダーミット・カルデラに大量に埋まっている「イライト」という粘土状の鉱物だ。
このイライトには、カルデラで見られる一般的な粘土鉱物の2倍ものリチウムが含まれており、バッテリーの素材となる高品質のリチウムを生産できると期待されるのだ。
だが問題は、「なぜマクダーミット・カルデラにはそんなにも大量のリチウムが眠っているのか?」ということだ。その秘密が解明されれば、どこにリチウムが眠っているのかもっと正確に位置を特定できるようになる。
火山のマグマが地下のリチウムを押し出した可能性
かつてマクダーミットに存在した火山は1600万年前に噴火して崩れ、イライトが大量に眠るカルデラを残した。
これまでの研究では、そこに含まれるリチウムは火山ガラスから溶け出して、たまったものだろうことが明らかになっている。
だがリチウム・アメリカズ社の世界探査担当副社長であり、コロンビア大学の非常勤准研究員でもあるトーマス・ベンソン氏によれば、それだけではリチウムを豊富に含んだイライトが形成されたプロセスのすべてを説明できるわけではないという。
そこでベンソン氏らの研究チームは、その豊富なリチウムの起源を明らかにするべく、カルデラ南部からサンプルを採取して分析を試みた。
そこから導き出された仮説は、火山が崩壊したあとで、「熱水濃縮」と呼ばれる2番目の出来事が起きたというものだ。
地下を流れるマグマがカルデラの中心部を押し上げて出来上がったのが、現在のモンタナ山脈だ。そして、このときに断層や亀裂といったものも生じている。
マグマはこうした亀裂から地表に流出。地下にあったリチウムを地表にまで運び、カルデラ南部の縁に沿って粘土鉱物をイライトに変えていった。
この鉱床が特別なのは、もともとリチウムが豊富だったところへ、さらにリチウムたっぷりの流体が大量に流れ込み、広範囲でリチウムを濃縮させたことだという。
現時点においてこれはあくまで仮説で、決定的な証拠に欠けているし、疑問に思える部分もある。
たとえば、モンタナ山脈を作り出したマグマの働きは、カルデラの北部にも断層を残している。今回の仮説が正しいのならば、そこにもイライトがあるはずだが、そうではない。
ベンソン氏によれば、その原因は、カルデラ北部では熱水濃縮が起きていないことであるという。ゆえにリチウム・アメリカズ社が狙うのもカルデラ南部となる。
リチウム採掘ははじまったばかり
今のところ、リチウム・アメリカズ社が米国で採掘を進めているのはタッカー峠だけだ。
実は今回のリチウム採掘は、アメリカ先住民族・環境保護団体・地元の牧場主たちから激しく反発され、長い法廷闘争が繰り広げられてきた。
リチウムの採掘の工事が開始されたのはようやく今年になってからのことで、2026年までのリチウム生産が予定されている。
またこれに関連し、米国の大手自動車メーカーゼネラルモーターズ社は1月、リチウム・アメリカズ社に6億5000万ドル(約950億円)を出資し、採掘の第一段階におけるリチウムを独占的に入手する権利を手に入れたと発表している。