“電気を使わずに”物体を冷やす技術をMITが開発
2022/9/22
パッシブ冷却のデモ(Image Credit: MIT)
このシステムは、従来から使われている2つの独立したパッシブ冷却技術を組み合わせ、さらに断熱材を加えることで、これまで実現出来なかった大幅な冷却を可能にしたという。
研究は、MIT ポスドクの Zhengmao Lu、Arny Leroy、Jeffrey Grossman 教授と Evelyn Wang 教授により行われた。
どのような仕組みで冷却するのか?
研究者らは、MITの建物の屋上で、ソーラーパネルと見間違うような10cmほどの箱を使って、この技術のデモンストレーションを行った。
この装置は、水を冷やすと同時に熱を通すという2つの役割を果たす3層の材料で構成されている。一番上の層は、ポリエチレン製のスポンジのような構造の「エアロゲル」で構成される。エアロゲルには無数の穴があいており、そこに空気が含まれる。これによって、断熱性がありながら、水蒸気や赤外線を通す性質を備える。
エアロゲルの下にはハイドロゲルという、これまたスポンジのような素材が配置される。ハイドロゲルも無数の穴が開いた素材だが、その穴は水で満たされている。最後に、鏡のような層が、入ってきた光をすべて他の部品に反射させ、部品が熱を持ち、収納箱の中身が熱くならないようにしている。
ハイドロゲル内の水が加熱されると水蒸気となり、熱を奪って上方に上昇する(蒸発冷却)。また、水蒸気はエアロゲルを通過するため、赤外線を放射し(放射冷却)、デバイスの熱の一部を空気中をまっすぐ上昇させ、宇宙空間へと運ぶことができる。
このように冷却することで、湿度の高い条件下では40%、乾燥した条件下では3倍長く食品を保存できるとのことだ。
この技術の今後の展開
この技術を使えば、エアコンのコンプレッサーが冷えることで受ける負荷を下げることもできる。そうすれば、エアコンの効率が上がり、省エネにもつながる。しかし、この技術が商業的にスケールアップするには、大きな障害がある。
というのも、このプロセスで使用される蒸発性材料は、太陽の下で加熱され、十分な冷却ができないからだ。今回の実験で使用されたエアロジェルは、MITのチームが開発したもので、高価な製造工程が必要である。
エアロゲルの製造に使われる溶媒は、エアロゲルの構造を壊さずにゆっくりと除去する必要がある。これを実現するには、臨界点乾燥(CPD)を容易にする特殊な装置が必要で、これがコストアップの要因となっている。
研究チームは現在、凍結乾燥などの安価な方法や代替材料の使用により、CPDの必要性を回避し、コスト削減が可能かどうかを調査している。現時点では、具体的にいつ実現できるかはわからないという。
論文の概要
蒸発・輻射を利用したパッシブ冷却は、省エネ効果が高い反面、周囲の冷却力が低い、環境加熱、水の使用量が多い、気候条件による制約がある、などの課題がある。そこで、太陽熱反射層、赤外線放射蒸発層、赤外線透過・太陽熱反射・水蒸気透過断熱層を用いた蒸発・放射断熱冷房(ICER)を提案する。ICERの大きな特長は、断熱材、蒸発冷却材、放射冷却材を相乗的に組み合わせていることです。その結果、純粋な蒸発冷却よりもはるかに少ない水消費量で、直射日光下で周囲温度より9.3℃低い湿球温度を安定して達成することができるのだ。不利な気候条件のもとでは、ICERは周囲温度で96W/m2の日中冷却力を発揮し、最新の放射冷却装置と比較して300%の向上を実現した。夏季に電気を使用しない場合、ICERは湿度の高い気候では食品の保存期間を40%、乾燥した気候で水の補給頻度が少ない場合は200%延長することができる。