海に浮かぶ巨大風力タービン:浮体式大型洋上風力タービンが米国の再生可能エネルギー目標達成の追い風に

米国での風力発電はこの20年間に再生可能エネルギーの重要な担い手として存在感を高めてきました。風力発電所は米国内で数多く設置されてきましたが、今は陸上ではなく沖合の洋上に設置されるケースが増えています。今年5月上旬、米国内務省海洋エネルギー管理局は同国初の大規模洋上風力発電所となるヴィンヤード・ウィンド1(Vineyard Wind 1) プロジェクトの最終承認を行いました。同プロジェクトはマサチューセッツ州マーサズ・ヴィンヤード島近くにあり、800MWの発電容量を予定しています。

ですが、同じ「海」でも場所によって大きく異なり、どこでも同じようにいくわけではありません。電力会社は米国東海岸やヨーロッパの北海のような、比較的遠浅な海域での風力発電所建設に関してはノウハウがあります。しかし大陸棚が沖合で急に落ち込む米国西海岸ではまったく違った手法を用意しなければなりません。

ニューヨーク州ニスカユナにあるGEグローバルリサーチで機器制御と最適化を担当するシニア・プリンシパル・エンジニアを務めるロジェ・ブロム(Rogier Blom)はこのことを強く認識しています。彼が取り組んでいる浮体式風力発電プロジェクトがまさに今注目される理由がここにあるからです。「米国の至るところで、風力エネルギーが私たちの国に間違いなく影響を与えていることを目にします。ですから私は、電力需要が大きい大都市圏を抱える東海岸および西海岸にクリーンな風力エネルギーで作った電力を届けるにはどうすれば良いのかと考えているのです」とブロムは語ります。

西海岸における解決策の一つは、浮体式風力タービンを導入することです。そこでブロムと彼の同僚は、現在稼働している最も強力な洋上風力タービンであるHaliade-X 12MW型の浮体式仕様を設計しました。この設計コンセプトでは、ローターの直径が720フィート(約220メートル)あり1基あたり年間67GWhが発電できる全高853フィート(約260メートル)の風力タービンが対象です(上部にある完成予想図を参照)。なお、この風力タービン1基だけで、同国の16,000世帯分の消費電力を十分賄うことが可能です。また、この設計案には水深の深い海域への設置を可能にする高度な制御機器も搭載されています。

米国エネルギー省のエネルギー高等研究計画局(Advanced Research Projects Agency-Energy、ARPA-E)はATLANTISプログラムを通じ、この設計コンセプトをスポンサーとして支援しています。なお、同コンセプトは海洋産業界での革新的企業であるグロステン(Glosten)社とGEが提携して開発しているものです。

また、同省の国立再生可能エネルギー研究所(NREL)の予測によると、米国の洋上風力発電所の総潜在発電量は、同国の年間総電力消費量(4,000TWh)のほぼ2倍とされています。そのうち42%は、60メートル未満の水深に設置できる従来の海底着床式の洋上風力タービンから得られると見られています。しかし、残りの58%は、強力かつ安定した風が吹くものの、従来の着床式タービンの設置が技術的に難しく、コストの面からみても採算がとりにくい深い海域で発電する必要があります。

このような巨大な機器を海に浮かべるのは簡単なことではありません。まず手始めに開発チームが取り組んだのは、タービンをいわゆるフローターと呼ばれる浮体式プラットフォーム上に設置することを設計に織り込むことでした。タービンの途方もない重量を支え、海や風のもたらす絶え間ない揺れに対処するこのフローターの設計はとても難しいとブロムは語ります。さらに「浮体式風力タービンを組み立てることは、いわばバスを高い支柱の上に置き、直立状態を維持しながら海面に浮かばせ、どんなに海が荒れようと常に安定した状態を保たなければならないということです。そのため、設計の段階から、浮体式プラットフォームに働く力学とタービンに働く力学の両方を常に考察する必要があります」と彼は言います。

石油業界およびガス業界では、洋上浮体式プラットフォームを長い間採用していますが、プラットフォームとその上に構築する施設をそれぞれ独立して設計するのが一般的な手法です。ですが、同じ方法を浮体式洋上風力発電にも採り入れることは、重量の嵩むプラットフォームの設計につながってしまい、発電コストも結果的に押し上げることになってしまいます。

一方、ブロムの計画では12MW仕様のHaliade-X風力タービンをグロステン社と共同設計した「軽量三脚型可変緊張係留プラットフォーム(仮訳)lightweight three-legged, actuated tension leg platform」の上に組み立てることを提案しています。「Active tendons(ケーブルを使う動作コントロール方法)」を用いることにより、プラットフォームを海底に安全に固定するとともに、高波の影響を避け、全体的な負荷を軽減します。

GEのコンセプトは、タービンとプラットフォームおよび制御アルゴリズムを組み合わせてシステム全体を設計する、いわゆる制御設計に基づいています。これにより、強風や高波に耐えるために必要だった追加システムが不要になり、その結果浮体式洋上風力発電で作られた電力の実効価格である均等化発電原価(LCOE)を下げることにつながるのです。

このような大型の浮体型洋上風力発電所が完成し、米国の都市に電力を供給するのはまだ何年も先になるでしょう。しかし、この技術は将来的に価値があり、新しい再生可能エネルギー源を活用する手段として大いに期待されます。「脱炭素化という目標を達成し、風力、特に洋上風力を活用したいのであれば、浮体式風力発電は不可欠な技術になるでしょう」とブロムは話しています。

ソース:海に浮かぶ巨大風力タービン:浮体式大型洋上風力タービンが米国の再生可能エネルギー目標達成の追い風に | GE Reports Japan